今朝のココア

こんな日々を愛おしく思って

somewhere I belong

 魔性の子 小野不由美


<プロット>
広瀬は教育実習生として母校の高校に赴き、担任のクラスで一人変わった生徒を見つける。

その変わった生徒の高里には変わった噂がある。高里に何かすると呪われる、祟られる、と。
実際に彼の周りではこれまで少なくない人数が死んでいる。
また、噂によると彼は幼い頃一年間“神隠し”にあっていたようである。
高里と話すと、彼は神隠しにあったときのことは何一つ覚えていないが、
何か重要なことを忘れている気がして、その時のことを思い出したいと思っているよう。
高里の周りで起こる事件と高里との関係をどう捉えるべきか広瀬は戸惑う。

祟りなんてバカらしい、周りの怖がっている奴らはバカだと言い、高里の味方となった生徒。
祟られるなんてありえないことを証明するために、皆の前で高里の顔をはたいてみせたその生徒は、
その数日後事故死を遂げる。
高里は賢い。その生徒が自分のために自分をはたいたことを理解している。
高里の意思とは関係ないところで祟りは起きているようだ。

物語と並行して、幽霊のような、異界から来たと考えられるものが町に出現する。
そのものたちは何かを探しているといい、人間に声をかけて聞いてみては、消えていく。
(ラストシーンにつなげるための伏線+物語の前半のスパイス)

生徒の事故死でパニックになったクラスメートたちが、高里をつるしあげる。
手をついて謝れと言われた高里だが、手をつく瞬間、高里は何かをハッと思いだし、
手をついて謝ることはできないと言う。
それはクラスメートたちの逆鱗に触れ、高里を2階の窓から落としてしまう。

大した怪我を負わなかった高里だが、
高里は自分に害をなしたものが自分の意志とは関係なく、報復を受けることを知っていた。
そのため、自分はクラスメートにつるしあげられた時、逃げるべきであったとわかっていたが、
微かに思い出したことに気をとられ、その機会を失ってしまったのだという。

案の定、つるし上げたクラスメートの何人かは屋上から飛び降りて死ぬこととなる。
それを目撃した生徒の証言によると、
屋上から飛び降りる際、その何人かは「助けてくれ」と叫んで震えていたという。
広瀬は同時に高里の周りに出現する何かに気付き始めていた。
真っ白な女性のような細長い腕、犬のような形をした大きな何か。
それらが高里の意思とは関係なく高里に害をなすものに報復を加えるのだと考える。

高里に対する恐怖は高里の家族にも蔓延していた。
家族は高里が家に戻ることを拒んだため、広瀬が引き取ることに決める。
広瀬は、高里をこの世で初めて見つけた同胞だと考える。
本来ここにいるべきでない人。故国喪失者。

高里に入れ込む広瀬に、広瀬の信頼をおいている恩師が警告する。
広瀬が思っているように高里と広瀬は同じではない、と。
広瀬はこの世の中を憎んではいないという。ただ単に自分が異質であり、
この世のものでないから、馴染めないのは当然だと。窮屈なのは仕方ないと。
ただ小さい時交通事故で意識を失っていた時にいた世界、
本来自分がいるべきである世界に戻りたいのだという。
意識を失っていた時の出来事であるが、広瀬は確かにみたその世界を切望する。
だが、そんな広瀬の考えを恩師は「表裏」だという。
自分の世界に戻りたい。ここは自分の世界じゃない。
それはひっくり返せば、こんな世は消えてなくなってしまえば良い、と考えていることと一緒だと。
この世界を憎んではいないと言ってはいるが、それは嘘だと。
たとえば、この野郎、消えちまえ!と誰かに対して感じるのと同じだという。
そして、高里に入れ込む広瀬は、
実際に理性では照明することのできない何かを引き起こしている高里とは異なるのだと言う。
広瀬は、広瀬が見たとても曖昧なあの世の世界の証明を高里に求めているのではないかと言う。
広瀬は、自分のエゴで高里の近くにいるのだ。→物語のテーマの一つ:“人は人であること自体がこんなに卑しい”

広瀬は疑問を感じ、それを高里にぶつける。
高里の意思とは関係なく高里の周りにいる何かが高里の周りにいる人間に危害を加える。
それは嘘で、実際は無意識か意識的にか、高里がしていることではないのかと。
本当は自分を傷つけるものたちを許せず、怒りや憎しみを感じているのではないかと。
それを否定しつつ、自分を責める口調で言い募る広瀬を高里は必至で止めようとする。

高里は、自分のそばにいる人は“見えない何か”によって危害を加えられないことをわかっていたため、
広瀬を守ろうと広瀬のそばを離れないようにする。
しかし、一瞬のスキをついて広瀬は教室に一人閉じ込められる。
今まではっきり見えなかったそれは正体を現し、広瀬に襲いかかる。
高里の助けにより間一髪危機を免れる広瀬であったが、その化け物が少なくとも高里とは異なる自我を持っていて、
それ独自の判断で高里を守ろうとしていることがわかる。

高里は学校を離れ、一人で行きていく決意を決めるが、高里の意思とは裏腹に事態は深刻化していく。
高里を追いたてた家族は高里を守ると言った化け物に殺され、学校も物理的に崩壊する。

事態を食い止めるためには自分が死ぬしかないと考え、自殺をはかる高里だが、
異界からきたと考えられる何かはついに高里を見つける。
そしてそれに諭され、高里は失くしていた記憶の断片を思い出す。
自分の命は投げ出してはいけないものだったことを、
自分の命は自分のものではないことを思い出す。自分は異界の王に使えるものだと。

異界からきた何かの言葉通り、高里を迎えに何かが海から嵐と共にやってくる。
“戻らねばならない”という高里に対し、広瀬は行くなと言う。
お前はこの世界の人間であるから、行ってはいけない、と。
それを制し、帰ろうとする高里に広瀬は自分の心の内をさらしてしまう。
なぜおまえだけ行ってしまうのか。俺を一人にするのか。
なぜおまえには帰るところがあるのか。俺にはないというのに...。
広瀬は、自分のエゴのために高里をつなぎとめておきたかったのだ。
そして自分と違って帰る場所が実際にある高里に嫉妬していたのだ。
高里はそれに気づき、悲しい顔で広瀬と別れ、旅立つ。